元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

「山男の手ぶくろ」という不条理な民話を中学校で読んできた

今朝、中学校で民話を読んできた。これが奇妙な話なのだ。

 

あるところに夫婦と娘三人が住んでいた。父親が山で木を伐っているときにあまりに疲れてあくびをしたら、山男が出てきて「あくびをしたのだれだあ。娘ひとり、もらわねばなんねえ」一番上の娘を山奥に連れて行ってしまう。ある日、山男が娘に留守番をさせる。留守の間に手袋を飲んでおけ、鍵のかかった二つの部屋は決して見るな、見れば殺すといって出かける。娘は手袋は床下に捨て二つの部屋を見る。一つは財宝の部屋、もう一つは人骨の部屋。山男が帰ってきて嘘がばれた娘は鍋でぐらぐら煮られてしまう。同じことが二番目の娘の身の上にもおこる。三番目の娘もさらわれ同じことを山男から命じられる。この末の娘は二つ目の部屋で傷ついた若者を見つけ傷の手当をして手袋の飲み方を教わる。帰ってきた山男が手袋を呼ぶが「腹ん中にいて出られんねえよう」と娘の腹の中で泣き声をたてる。部屋をあけたかと聞くと「あけてみた」と娘は答える。山男は泣きながら、嘘をつかない嫁が欲しかった、おまえこそ、その嫁だと言う。そこへ若者がはいだして山刀で山男を刺し殺す。娘と若者は夫婦になり親元に帰る。山の畑で働いてあくびをしても、もう山男はこないが、娘はときどき「嘘つかね嫁こほしかった」と泣いた山男のことをふと思い出す。

 

……不条理すぎる。おもしろい。怖い。なんか好き。山男に呼ばれて「はえ〜」と返事しながらのっこのっこ床下から出てきたり娘の腹の中で泣き声をあげる手袋がかわいいような不気味なような。ネットで検索したら手袋を飲んだという三女に対して「あの手袋は俺の…俺の…」と泣きながら言いかける山男を若者が刺し殺すバージョンもあるらしい。手袋はいったいなんなんだろう??

 

読み終わったあと、メンバーと雑談。「嘘つかん嫁が欲しかったって言うけどさ、部屋覗いたんだよね? よくまあいけしゃーしゃーと『あけてみた』とかいうよな〜と思うわ」「そんな娘だからふっと山男のこと思い出すんじゃないの」「なんでこんな男と結婚したかなあ、山男のほうがよかったかもって思ってたりして(笑)」……年のいったおばさん達の感想ってこんなもんです……いつだったか、「語り」をする人が小学校に来ていて雑談した時に「昔話って大人のもんだから」と言っていて、その時はぴんとこなかったけど、なんとなく分かる気もする。

 

ちょっと飛躍するけど、ネットでよく見かける実話だか創作だかわからない小話のたぐいも、そのうちこんなふうに採取されて「民話」になるのかもしれないなあとか思ったり。「釣り師」の人は現代の「語り部」なのか???

 

 

読んであげたいおはなし〈下〉―松谷みよ子の民話

読んであげたいおはなし〈下〉―松谷みよ子の民話

 

 「山男の手ぶくろ」は、この本に収録されています。中学生達はおとなしく聞いていましたが、どんな感想を持ったのか聞いてみたいです。うちの娘は「よく知らん若者と結婚とかないわ〜」と言っておりました。私はよく整ったお話よりも、こういう不条理な「え? なんなのこの話」というもののほうが好きです。でもって「禁忌 山中 あくび」「マタギ 手袋」でネット検索したりして時間を浪費してしまう。あ〜あ。田島征三の絵による絵本もあるようですが、小さい子に絵本として見せる話じゃないと思います。おもしろさよりも怖さが勝ってしまう子も多そうです。小さい頃はただでさえ実生活で怖いことが多いのだから、なにもお話でまで怖がらせんでもと思ってしまいます。好みの問題ですけどね。

 

お話の最後、山男のことをふと思い出すシーンは民話に元々あるのか、松谷みよ子の創作なのかどっちなんだろう。読んでいて、坂田靖子の『ビーストテイル』第一話「お妃と眠り姫」の最後のシーン、「王様は時々 自分のお妃がオーガーであったことを なつかしいと思うのでした」を思い出しました。この坂田靖子の昔話のパロディ集は独特のユーモアによって悲惨さや残酷さが半減され、本来は悪人のはずの脇役も愛嬌いっぱい、でもスパイスはぴりっと効いた感じが大好きでした。絶版みたいで残念です……とかいいながら本棚からひっぱりだしてくる私。いくらなんでも家事しないと! 今からがんばります!

 

追記

「ビーストテイル」絶版じゃなかった。文庫版が出てました。

 

坂田靖子セレクション (第2巻) ビーストテイル 潮漫画文庫