元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

日本短編文学全集の思い出

はてなブックマークからいろんなところを見ていたら、横光利一のこと書いてる人の日記に行き着いた。「天城」という作品名には全く記憶がないのに内容には覚えがあるなあ、いつ読んだっけ?? と思ってたら、最後の書影で(あ、子供の頃だ)と思い出した。ものすごく懐かしい気持ち。「日本短編文学全集」に収録されていたのだ。

 

実家は玄関を入ってすぐの廊下に本棚が置いてあって、「夏目漱石全集」と「日本短編文学全集」が並べてあった。上はガラスの引き戸、下は木の開き戸(家具でもこういうのかな?)になっていて、開き戸のほうには家族のアルバムや親戚の結婚式集合写真などが入っていた。

 

私が子供の頃は、インターネットも携帯ゲーム機もなかったし、実家は漫画禁止(外で読むのは自由だけど買うのは禁止)だったので、外遊びも人付き合いも苦手で勉強も嫌いな私は自由な時間を持て余し気味だった。なんにもすることがない日は、この本棚の前に座って「短編文学全集」からランダムに選んだ巻を読み、つまらなかったり難しかったりすると一編だけはがまんして最後まで読んで、あとはまた他の巻を取り出した。読み疲れると開き戸からアルバムを出してよく知らない親戚の結婚写真を見たり、玄関の靴を磨いたり、廊下でごろんところがってそのまま眠ってしまったり。体が痛かったり寒かったりすると、そのまま和室の畳の上に移動してまた寝た。時々、タオルケットがかかっていたのは母がかけてくれていたのだろう。

 

思えば、私が子供の頃は、どの家にも「全集揃い」の本がけっこう置いてあった気がする。子供の本も、大人の本も。「日本は文化国家を目指すべし」みたいな時代だったからだろうか。そういえば、実家は、当時同居していた伯母の趣味で、玄関脇の一室だけが洋風の造りになっていた。分厚いカーテンとレースのカーテンが二重にかかり、白い布カバーのソファーが置いてあった。黒いタイル貼りの暖炉っぽい(形だけ。煙突とかはついていない)ものが作り付けになっていて、たぶん当初はストーブ置き場だったんじゃないかと思う。私が物心ついた頃には伯母は嫁ぎ、伯母の部屋だった洋間は居間になった。暖炉もどきには母の手製の棚が作られて百科事典が詰め込まれ、なんだか間抜けな姿になった。父は自分が疑問の思うことがあると、子供に「百科事典で調べてこい!」というのが癖だった。短気な人だったので、「まだか!」「ぐずぐずするな!」と怒鳴られるんじゃないかとびくびくしながら急いで調べた。おかげで辞書や辞典をひくのは早くなった。

 

父が晩年、「本は全部処分する。要るなら取りにこい。こないと燃やすぞ」というので、仕方なく、玄関脇の全集二つを引き取った。我が家にも置く場所はなくアパートに置いている。引き取って以来、一度も読んだことがないけれど、今度「天城」を読んでみようか。